掛軸のさまざまな形(形式)について

掛軸は、仕様する状況に応じたさまざまな形(形式)があります。

こちらでは、数多くある掛軸の形(形式)の中でも比較的よく使われている形(形式)を御紹介いたします。

【真・行・草】の三体について

掛軸の形(形式)で一番多く使われており、掛軸の基本とも言える形式に【真】【行】【草】と呼ばれる物があります。
【真】は「佛表装」とも呼ばれ、「南無阿弥陀仏」等の名号や阿弥陀尊像、頂相画、観音図、曼荼羅等、佛事に関係する本紙を仕立てる場合の形式です。
【行】は「大和表装(三段表装)」や「幢補(どうほ)」とも呼ばれており、最も一般的な仕立ての形式であり、禅語等の墨蹟や様々な絵画で使われます。
【草】は「茶掛表装」や「輪補(りんぽ)」とも呼ばれ、御茶席で使用する場合等、茶道に関係する場合の仕立てに用いる形式です。

【真・行・草】という名前は書道から来ており、それぞれ【真】は「楷書」、【行】は「行書」、【草】は「草書」を表しており、1.【真】>2.【行】>3.【草】の順に格式が高いとされており、掛軸ではそれぞれの中でもさらに【真・行・草】に分かれております。詳しくは下の図を御覧下さい。
また、掛軸の仕立て以外にも、額装の仕立てや屏風、襖の仕立て、また華道等にも【真・行・草】という格式の違いがあります。

真の真

真の真

真の行

真の行

真の草

真の草

行の真

行の真

行の行

行の行

行の草

行の草

草の行

草の行

草の草

草の草

※【草の真】という形式はありません。

【袋表装(丸表装)】について

掛軸は元々、中国から伝わった物ですが、中国ではこの【袋表装(丸表装)】の形式で仕立てられている物がほとんどです。
日本でも、漢文や漢詩、南画等はこの形式で仕立てる事が多いです。また、本紙の丈が長く、大和表装(三段表装)で仕立てると床の間に掛けられなくなりそうな場合も、この【袋表装(丸表装)】の形式で仕立てる事があります。
使用する裂地の種類が一種類または二種類と少なく、仕上がりが非常にシンプルですっきりとして見えるので、そういった雰囲気に仕上げたほうが良い作品にも用いる事が出来ます。

【袋表装(丸表装)】の中でもいくつかの種類があり、使用する裂地が一種類の場合、二種類の場合、またそれらに筋廻しと呼ばれる細い筋を入れた物などがあります。

一文字無しの袋表装

一文字無し

一文字有りの袋表装

一文字有り

一文字無し・筋廻し有りの袋表装

一文字無し
筋廻し有り

一文字有り・筋廻し有りの袋表装

一文字有り
筋廻し有り

【明朝仕立・太明朝仕立】について

上記の「袋表装(丸表装)」の形式の両端に約1cm程の細い裂地を上から下まで付けた物を【明朝仕立】と呼びます。また、【文人表装(ぶんじんひょうそう)】等と呼ばれる事もあります。
両端の裂地は細い物が一般的ですが、両端部分を太くした【太明朝仕立】と呼ばれる物もあります。

「袋表装(丸表装)」と同じく、漢文や漢詩、南画、文人画の仕立てに用います。

明朝仕立

一文字無し・筋廻し無し明朝仕立

一文字無し
筋廻し無し

一文字有り・筋廻し有り明朝仕立

一文字有り
筋廻し有り

筋割り明朝

筋割り明朝

上下明朝

上下明朝

太明朝仕立

太明朝仕立 その一

明朝部分が天地と同じ裂地

太明朝仕立 その二

明朝部分が天地と違う裂地

【唐表装】について

「行の行」である「大和表装(三段表装)」とほとんど同じ形式ですが、使用する裂地が一種類、または二種類で仕立てられています。
それぞれの境目には細い「筋」を入れて分けます。また、大和表装では「風帯」と呼ばれる飾りが天(上)についていますが、唐表装では天(上)の裂地に筋を入れて風帯を表現する「筋割風帯」と呼ばれる形で仕立てます。
(風帯一本につき筋を二本使い風帯の幅を表現した物を「筋割風帯」、一本で表現した物を「筋風帯」と言います。この他にも「貼り風帯」と呼ばれる様な物もあります)

【唐表装】は神事に使用する掛軸等に用いられる事が多く、「神表具」などと呼ばれる事もあります。

唐表装 その一

一文字・中廻し・天地が全て同じ裂地

唐表装 その二

中廻し・天地は同じ裂地で、一文字は他と違う裂地

【台貼り表装・くり貫き表装】について

色紙や短冊、扇面や小さな手紙等はそのままの大きさで仕立てる事は少なく、台紙にはめ込んで本紙を大きくしてから仕立てる事がほとんどです。
このように台紙にはめ込んで仕立てる方法を【台貼り表装】と呼びます。

「台貼り表装」以外の方法として、大きな裂地をその本紙の大きさ・形にくり貫き、直接はめ込む【くり貫き表装】と呼ばれる方法もあります。

台貼り表装

色紙の台貼り表装

色紙の場合

短冊の台貼り表装

短冊の場合

くり貫き表装

くり貫き表装01
くり貫き表装02
くり貫き表装03

【扇面表装】について

「扇面(扇子から外した本紙や扇子の形をした本紙)を掛軸に仕立てる場合に用いる形式です。
扇面は色紙や短冊と同じ様に「台貼り表装」や「くり貫き表装」の形式で仕立てます。

扇面 台貼り表装

扇面 台貼り表装

扇面 くり貫き表装

扇面 くり貫き表装

【見切り表装】について

「行の行(大和表装)」の形式によく似ているが、【見切り表装】は柱の裂地が中廻しと同じではなく、天地の裂地と同じ物を使用し、丈も天から地までの長さになています。
佛表装である「真の行」の中柱を省略した形にもなっており、「大和表装」より格式が高いともされています。

幢補見切り表装

幢補見切り表装

輪補見切り表装

輪補見切り表装

【創作表装(デザイン表装)】について

上記で御紹介した昔からの決められた形式の仕立て以外にも、仕立てる表具師の感性で形式にとらわれず自由な形に仕立てる掛軸もあります。
抽象画等の仕立てや、展示会等で展示する為に目を惹くいう目的が明確な場合にはこのような【創作表装(デザイン表装)】と呼ばれる仕立てを行う事があります。
また、近年は各家庭において「和室」が少なくなり、マンション等では和室があっても床の間が無い場合が多く、洋室に掛軸を飾りたい場合等は【創作表装(デザイン表装)】で仕立てられた掛軸が似合う事も多いかもしれません。

創作表装01
創作表装02
創作表装03
創作表装04

京表具の仕立てのデザインについて

いろいろな形式の掛軸の仕立てを御紹介いたしましたが、注意しなければいけないのは【創作表装(デザイン表装)】の様な「見栄えがする」「派手」「目立つ」といったデザインは、長く見ていると「飽き」も早くなる事があります。
短期間、目を惹くという目的が明確な場合はそれで良いと思いますが、掛軸をその空間で「主役」とするのか、それともその空間を彩り、花を添える様な雰囲気を創る「引き立て役」とするのか等をよく考えて仕立てる事が大切です。

京表具は長い歴史の中で磨かれた感性を引き継ぎ、華やかさの中にも落ち着きのある雰囲気で仕立てられる事が多いのが特徴です。
掛軸や額装等の表装に使用される裂地も、長い歴史の中で磨かれた美しさがあります。

当店では仕立てる作品(本紙)の内容や、使用する目的、飾る空間等の事も考え、それに合った京表具の御仕立を提案させていただきます。
掛軸や額装・屏風・衝立・襖等の御仕立ての際は是非一度、御相談下さい。