風鎮について

掛軸を掛けて飾る時に、掛軸の一番下の両端にぶら下げる飾りの事を「風鎮(ふうちん)」と言います。
この風鎮には、「飾りとしての役割」と、「重りとしての役割」があります。

風鎮の役割

「ふうちん」は「風」を「鎮める」と書くように、掛軸が風に煽られて揺れる事を防ぐのが一番の役割です。

しかし、気密性の高い現代の住宅では、換気の際を除いて、家の中を風が吹き抜ける事はとても少なくなりました。

まだエアコン等の空調が無かった頃はどの家でも窓・障子・襖を開けて家中の換気を行っていました。外から入ってくる自然の風は時に緩やかに気持ちよく拭きぬけますが、時には強く、勢いよく吹き抜ける事もあります。その際に掛軸が風に煽られ揺れると、壁にコツンコツンとぶつかったり、掛軸自体が落ちてしまったりする危険があります。

掛軸が落ちてしまうと間違いなく折れたり、また何かの上に落ちれば破れたりするでしょう。こういった事態を防ぐ為に作られたのが「風鎮」なのです。

風鎮

風鎮による悪影響について

上にも述べた様に、現代の気密性の高い住宅では、風鎮本来の役割を果たす為に取り付ける事は少なくなりました。大半は「飾り」として取り付ける事がほとんどでしょう。

しかし、飾りだと言っても、年中風鎮を付けっぱなしにする事は、掛軸にとって大変良くない事です。

風鎮は本来の「重り」としての役割を果たす為に、陶器や石等の重みのある材料で作られています。この重みのある風鎮を付けっぱなしにするという事は、掛軸に対して下に引っ張られる力を掛け続けるという事です。

掛軸の一番上には「掛け紐」と呼ばれる細い紐があり、その紐を引っ掛けて吊るします。もし風鎮を付けっぱなしにするとこの細い紐に大きな負担が掛かりっぱなしになります。まだ新しくしっかりした紐の間はいいですが、数十年経って脆くなってしまった紐では、いつ切れて掛軸が落ちるかわからないでしょう。

また、掛け紐だけでなく、掛軸全体にも重りで引っ張られる力が掛かり続けるので、掛軸自体にも良い影響があるとは言えません。

よく、「古くなって折れやシワが発生してしまった掛軸を飾る時に、風鎮をつけて重みで引っ張って延ばす事である程度綺麗に見える」と説明されている事がありますが、これは大きな間違いです。折れやシワを延ばす事は風鎮の役割ではありません!もし、折れやシワが発生してしまっているなら、無理に飾ろうとせず、専門の表具師の所へ修復に出すべきです。

もし、風鎮の重みを利用して無理に飾り続けると、折れやシワが発生して弱く脆くなってしまった部分から真っ二つに破れて千切れてしまうのは時間の問題でしょう。

掛軸に取り付けた風鎮

現代での風鎮の使い方

上の様に、デメリットばかりを挙げましたが、決して使用してはいけないという事ではありません。ただし、上記のようなデメリットがあるという事を理解して使用していただきたいと思います。

■風鎮は「絶対に付けっぱなしにしない」で、窓を開けて換気を行う際等、必要な時だけ使用する。
■来客時等に飾りとして付けて楽しむ。お客様が帰られた後は外しておく。

このように掛軸への負担をできるだけ少なくするように気をつけながら、風鎮を飾った時のまた違う雰囲気を楽しんでいただければと思います。